日本の年金制度は頻繁に変わる。年金を自身の老後生活にうまく活用するためにも、年金制度をよく理解しておきたい。本記事では公的年金の種類や制度と共に、年金の受給額に関して解説する。
年金はいくらもらえるか? 概算一発計算式で試算しよう
年金についてまず気になるのが、「いくらもらえるか」だろう。見込額についての数字は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できるが、だいたいの年金の金額を知りたいのであれば、年金博士として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が紹介している計算式でわかる。
北村式「簡単一発計算式」でもらえる年金を試算
年金は「老齢基礎年金(国民年金部分)」と「老齢厚生年金(報酬比例部分)」に大きく分けられる。
前者の「老齢基礎年金」は、給料の金額や会社の制度に関係なく加入期間に応じてもらえるもので、後者の「老齢厚生年金」は、会社員時代の報酬額(給料)に応じてもらえるものだ。これらの金額は下の計算式で、大まかに試算できる(金額はあくまで目安)。
※1 保険料を納めた年数は、「厚生年金制度がある企業に勤務した年数」+「国民年金加入年数」で計算できる。例えば大学生時代は未納で、22歳から60歳まで会社員だった人は38年となる。大学生時代から国民年金保険料を支払い、その後は60歳まで会社員だった人は40年となる
※2 現役時代の平均年収は、企業によって異なるが、おおよそ38歳前後の年収が生涯の平均年収になるケースが多い
年収500万円サラリーマンが「簡単一発計算」すると…
1979年生まれで、大学生時代は国民年金保険料をきちんと支払い、22歳から60歳まで38年間サラリーマン生活を送る人の場合で試算してみよう(現役時代の平均年収を500万円とする)。
日本の年金制度は3階建て、あなたはどのタイプ?
日本の年金制度は「3階建て」で表現されることがあり、「会社員・公務員」、「自営業者」、「主婦(主夫)」など個人の状況に応じて、加入する年金制度は異なる。
ここでは、それぞれの年金制度について簡単に解説していこう。
年金の「1階」「2階」「3階」って何?
「日本の年金は3階建て」と言われている。1階部分については20歳以上の日本人は全員加入する。一方、2階部分、3階部分は個人の状況に応じて異なる仕組みになっている。
【年金の「1階」「2階」「3階」はこう違う】
- 1階=「国民年金」
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国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満の人は誰でも加入することになっている。年金を受給する際には、1階部分のことを「国民年金部分」「老齢基礎年金」「基礎年金部分」と呼ぶこともある。
- 2階=「国民年金基金」または「厚生年金」
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2階部分に相当する年金制度は「国民年金基金」と「厚生年金」の2種類だ。
「国民年金基金」は自営業者などを対象とした年金制度で、任意で加入できる。一方、「厚生年金」は、会社員や公務員の場合が加入するものだ。年金を受給する際には、厚生年金部分のことを「老齢厚生年金」「報酬比例部分」と呼ぶこともある。
- 3階=「厚生年金基金」「年金払い退職給付」など
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3階部分に相当する年金制度はいくつかあり、例えば会社員の場合、勤め先に「厚生年金基金」制度がある場合、加入できる。公務員の場合は、「年金払い退職給付」という仕組みで3階部分が支給される(詳細は別記事であらためて解説)。
※その他、国の年金制度とは別に、iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型確定拠出年金など、任意で加入できる資産運用の税制優遇制度もある
「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」あなたはどれ?
年金加入者は「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」の3つに分けられている。現在の就業状況により、それぞれ以下の人が該当する。
【あなたはどの被保険者に該当する?】
- 第1号被保険者
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自営業者やその配偶者、農業・漁業者、20歳以上の学生、無職の人など
- 第2号被保険者
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会社員、公務員、週30時間以上勤務など一定の条件を満たすアルバイト・パートタイマー・契約社員など
- 第3号被保険者
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第2号被保険者に扶養される主婦(主夫)
会社員が加入する年金
会社員は「第2号被保険者」と呼ばれ、「国民年金」(1階部分)と「厚生年金」(2階部分)の2種類の年金をもらうことができる。ここでいう会社員とは「株式会社」や「5人以上が勤務する個人事業所」などの社員を指す。
公務員が加入する年金
公務員はかつて「共済年金」(2階部分)に加入していたが、2015年から「厚生年金」に統一された。公務員も会社員と同じく「第2号被保険者」として扱われ、「国民年金」と「厚生年金」の2種類の年金をもらうことができる。
自営業者が加入する年金
自営業者や医師、弁護士などの個人事業主は「第1号被保険者」と呼ばれ、国民年金(1階部分)に加入する。国民年金の保険料を20~60歳の40年間払い込むと、満額となる年間約80万円を受け取ることができる。
また、2階部分である「国民年金基金」に任意で加入することができる。都道府県別または職業別に組織されていて、自分で加入口数(保険料)や加入年数を選択できる。
主婦(主夫)が加入する年金
会社員や公務員などの配偶者として扶養されている主婦(主夫)は、「第3号被保険者」と呼ばれ、1階部分の国民年金に加入する。「第3号被保険者」は保険料を払う必要がない。
主婦(主夫)がアルバイトやパートなどをしている場合、「年収が130万円を超えない、かつ夫(妻)の年収の半分未満」であるということが「第3号被保険者」である条件だ。
学生や無職の人が加入する年金
学生や無職の人は、20歳以上60歳未満であれば「第1号被保険者」として扱われ、国民年金(1階部分)に加入する。しかし、学生や前年度の所得が一定の金額より低い場合、「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」のいずれかを受けられる。詳しくは「保険料が納められないときは?」の項目で紹介する。
年金保険料はいくら?
年金の保険料は、加入している年金制度によって異なる。簡単に言えば、自営業者(第1号保険者)は毎月約1万6000円、会社員など(第2号被保険者)は給料のざっと約1割を天引き、主婦など(第3号被保険者)は保険料を納めなくていい──ということになっている。(第1号~第3号被保険者に関する解説は「日本の年金制度は3階建て、あなたはどのタイプ?」を参照)。以下、詳しく見ていこう。
会社員や公務員など(第2号被保険者)の年金保険料
会社員や公務員など第2号被保険者の保険料は、給料から天引きされる。保険料は概ね給料の18.3%だが、そのうち会社(公務員の場合は国)が半分を負担する(労使折半と呼ぶ)。そのため、本人負担分は概ね給料の9.15%となる。
例えば月給が30万円の人の場合、労使合計の保険料は月額4万7700円、給料から天引きされる額(本人負担分)は2万3850円となる。
自営業者など(第1号被保険者)の年金保険料
自営業者や農業・漁業者、無職の人、20歳以上の学生などの第1号被保険者が加入する国民年金の保険料は、一律で月額1万6410円(2020年1月現在)。この額は、変動することがある。
主婦・主夫(第3号被保険者)の年金保険料
会社員や公務員などの第2号被保険者に扶養されている配偶者(第3号被保険者)は、夫(妻)が給料から天引きされる保険料に国民年金保険料が事実上“含まれている”として扱われ、保険料を納める必要はない。
保険料が納められないときは?
自営業者やパートタイマー、学生など(第1号被保険者)の場合、自身で保険料の払い込み・引き落としの対応をとる必要がある。生活費や税金を払い、年金保険料まで払うと、生活が苦しい……という場合もあるだろう。
所得が一定の基準以下で、保険料を納めることが困難ときは、国民年金保険料の免除や納付猶予を検討できる。
国民年金保険料の免除制度
前年所得が一定額を下回る場合、その所得金額に応じて、保険料を「全額」、「4分の3」、「半額」、「4分の1」のいずれかで免除できる(免除制度の申請を行う時期が1~6月までなら審査対象の所得は「前々年」の分となる)。
所得審査の対象は、本人に限らず世帯が対象となるので、例えば親が働いており、同一世帯の子供が無職なら、免除の対象にならない可能性がある。
国民年金保険料の納付猶予制度
前年所得(※)が一定額を下回る場合、その所得金額に応じて、年金保険料を「全額」または「4分の3」、「半額」、「4分の1」免除できる申請や所得基準に関する相談は、住民登録をしている役所の国民年金担当窓口まで。
(※免除制度の申請を行う時期が1~6月までなら審査対象の所得は「前々年」の分となる)
免除や納付猶予を活用しても年金はもらえる
年金保険料の免除や納付猶予を行った場合、全額を納付したケースに比べれば将来の受領は減るものの、年金をもらうことはできる。
例えば、「全額免除」の期間については保険料を全額納付した場合の年金額の「2分の1」、「4分の3免除」の期間については保険料を全額納付した場合の年金額の「8分の5」──など決められた水準の金額をもらうことができる。
また、年金をもらうためには10年間(120か月間)の保険料を納めた期間(受給資格期間と呼ぶ)が必要となっていて、免除や納付猶予の制度を活用した期間もその「受給資格期間」にカウントされる。何も申請せずに未納のままだと「受給資格期間」としてみなされないため、経済的に苦しい場合は「免除」「納付猶予」を活用すべきだろう。
「免除」「納付猶予」「学生納付特例」は、10年以内であれば、あとから「追納」して受給額を満額に近づけることも可能だ。
国民年金保険料の支払いが滞ると…
国民年金への加入は法律で義務化されているので、保険料を払わないという選択肢は原則として存在しない。しかし自営業者などが保険料を滞納した場合、どうなるのだろうか。弁護士の竹下正己さんが解説する。
また、同法では国民年金の保険料の徴収手続きについて「この法律に別段の規定があるものを除くほか、国税徴収の例によつて徴収する」と定めています。
その96条で滞納者がいれば、厚労大臣がまず、期限を指定して支払いを求める督促状を送り、指定の期限までに保険料を納付しないときは、国税滞納処分の例による滞納処分を課したり、滞納者の居住地や財産所在地の市町村に対し、滞納処分をするよう請求することができるとしています。
年金の平均的な受給額はいくら?
年金について一番気になるのは、「いくらもらえるか」だ。国民年金と厚生年金の平均的な受給額を見ていこう。
国民年金の受給額
国民年金(いわゆる1階部分)の受給額は、20~60歳の40年間加入したケース(満額受給)で月額6万5008円(2019年度)。ただし、未納期間がある人も多く、平均的な受給額は約5万5000円となっている。
例えば22歳で大学卒業後に会社員になったケースであれば、22~60歳は下記の厚生年金と一緒に国民年金にも加入していることになるから、大学時代(20~21歳)にきちんと国民年金保険料を納めていれば、1階部分は満額受給できる。
厚生年金の受給額
平均的な収入だった夫が65歳以降にもらえる厚生年金(いわゆる2階部分)の受給額は、約9万1000円となっている。
厚生労働省のHPによると、こうした夫と専業主婦だった妻の国民年金を合計すると、約22万1000円になると示されている。
これは【夫の2階部分(約9万1000円)】+【夫の1階部分(約6万5000円)】+【妻の1階部分(約6万5000円)】の合計額にあたる。ただし国民年金を満額受給できる場合の金額であるから、未納期間がある人はこれより少なくなる。
加えて、厚生年金(2階部分)は、現役時代の報酬額によって変動する。自身の厚生年金が気になる人は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」、または「年金はいくらもらえるか? 概算一発計算式で試算しよう 」の項目にある簡易計算式を用いて調べてみよう。
年金は何歳からもらえるのか?
年金の受給開始年齢は、原則「65歳」となっている(「繰り上げ受給」を選択することにより、月額は減らされるが60歳から受給することは可能。また、「繰り下げ受給」を選択することにより、受給開始年齢を遅らせて月額を増やすこともできる。詳細は別項参照)。
年金はたび重なる法改正により、受給開始年齢が従来の60歳から65歳に引き上げられた。しかし、いきなり受給開始年齢を「65歳」に変更すると定年を迎える人々の生活に大きな影響を与えてしまうため、段階的に引き上げられている。
ただ、若い世代にとっては「65歳」でもらえるかどうかはわからない。少子高齢化の影響で年金制度は危機に瀕しており、政府はすでに受給開始年齢を「67歳」あるいは「68歳」に引き上げるための検討を進めている。将来的には「70歳」まで引き上げられるという可能性も否定できない。
年金の受給開始年齢の一覧
現行制度では受給開始年齢は「65歳」が基本となるが、一部の世代は65歳以前から「特別支給の厚生年金(定額部分、報酬比例部分)」がもらえる。下記では年金の受給開始年齢を世代別に紹介する。
- 1961年4月2日以降に生まれた男性
1966年4月2日以降に生まれた女性 - ■65歳から:国民年金&厚生年金
- 1959年4月2日~1961年4月1日までに生まれた男性
1964年4月2日~1966年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■64歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1957年4月2日~1959年4月1日までに生まれた男性
1962年4月2日~1964年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■63歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1955年4月2日~1957年4月1日までに生まれた男性
1960年4月2日~1962年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■62歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1953年4月2日~1955年4月1日までに生まれた男性
1958年4月2日~1960年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■61歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1949年4月2日~1953年4月1日までに生まれた男性
1954年4月2日~1958年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■60歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1947年4月2日~1949年4月1日までに生まれた男性
1952年4月2日~1954年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■64歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(定額部分+報酬比例部分)
■60歳から64歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1945年4月2日~1947年4月1日までに生まれた男性
1950年4月2日~1952年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■63歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(定額部分+報酬比例部分)
■60歳から63歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1943年4月2日~1945年4月1日までに生まれた男性
1948年4月2日~1950年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■62歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(定額部分+報酬比例部分)
■60歳から62歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分) - 1941年4月2日~1943年4月1日までに生まれた男性
1946年4月2日~1948年4月1日までに生まれた女性 -
■65歳から:国民年金&厚生年金
■61歳から65歳まで:特別支給の厚生年金(定額部分+報酬比例部分)
■60歳から61歳まで:特別支給の厚生年金(報酬比例部分)
年金をもらうための「受給資格」
年金を受給するためには、最低10年間の加入期間が必要だ(受給資格期間と呼ばれる)。自営業などで国民年金保険料を納めた期間と、会社員や公務員として働いた期間(厚生年金加入期間)、あるいは主婦(主夫)などで「第3号被保険者」だった期間が合計10年以上あれば受給資格を得られる。
2017年までは受給資格期間は「25年」だったが、それより短期間しか加入していなかったために「払ったのにもらえない」ケースが続出し、「10年」に変更された経緯がある。これまでの加入期間が少なかったとしても、「どうせもらえない」と考えて国民年金保険料を払わないのは損になる。
また「保険料が納められないときは?」の項目でも紹介したように、「免除」や「納付猶予」の期間中も受給資格として換算される。